「人に使われる人間から、人を使う人間になりなさい」
昔、仕事の上司からこんなふうに言われた。
会社なら使う人間は「社長」で使われるのは「社員」になる。
社長は「利益を生み出す方法」を構築するのが仕事で、社員は与えられた任務をミスなく行うのが仕事になる。
社長は、会社の業績に従って報酬が変動するが、社員は報酬が安定している反面、会社の定義した以上の報酬を得ることはできない。
社長は自分で判断して結果を得るのに対し、社員は会社の方針に従わなくてはならない。
音楽で生活をする人は、誰もが「社長」と「社員」の両方の性質を持っている。
「良い音楽を作ろう」と「売れる音楽を作ろう」の考え方は大きく違う。
クライアントがどちらを求めているかが理解できないと、自分の音楽がてんで的外れなものになってしまう可能性も高い。
逆に、人の求めることが理解できれば、音楽業界の競争の中で勝ち抜ける可能性が上がる。
今回は、音楽の仕事における「「使われる側」の取り組み方について。
音楽を仕事にしたい方は是非ご一読ください。
「使う側」は目的がある
音楽のプロデューサーといっても、「音楽の専門家」と「商業音楽のプロ」の2種類がいる。
商業音楽のプロデューサーには意外にも演奏経験や音楽的思慮の浅い人も多く、つまりは「うれる音楽はこんな感じ」を若い女の子を使って作り上げるだけのプロだったりする。
例えば、歌のオーディションがあったとき、プロデューサーは「コンセプトにあっている質の高い人材」を探している。
これがアイドルなら容姿だったり所作だったり、歌だけが要素ではないことの方が多い。
対して「使われる側」となるオーディション参加者は「自分を知ってもらう」事を目的にオーディションにやってくる。
大事なのは、求められるコンセプトに合った形に自分をアレンジしてパフォーマンスすることである。
もちろん、素材として適任であれば上記の内容をしなくても採用される確率もあるが、長期的に見るとプレイヤーが作品のコンセプトを理解してなければ、使いにくい人材という評価につながってしまう。
コンセプトは、映像作品なら映像にあっているか、その時の音楽のトレンドなど商業的な理由で決定される。
自分もプロデューサーの目線に立って「どうすれば作品が良くなるか」をプレイヤーという立場から考えて表現することが、優秀なプレイヤーになる一つの要素と言える。
「仕事ください」は禁句
「仕事をください、なんでもやります」は、「私は今、求められる人材ではありません」と白状しているのと同じである。
人は、運を持っている人や、多くの支持をうけている人を使いたいと考えている。
実力だけでは成功できないこの業界で「運」「人を惹きつける力」は大きな要素として考えられているからだ。
実力があっても仕事がなかったり、人から声がかからない人は、何かしら問題があると疑われて、結果として良い結果につながらないことが多い。
仕事の誘いは、クライアントから声をかけてもらう形が理想的だ。
業界の人間と仲良くなったり話を広げることは大切だが、直接的に仕事を欲しがるのではなく、自分のアピールポイントを良い形で伝えることが大切である。
仕事をくれ、と伝えても、仕事がなければどちらにしろ話はきません。
自分が良い人材だと正しく伝えておけば、必要な時期に自然と声がかかります。
「忙しい」発言に要注意
逆に「忙しい」も場合によって問題が生じることがある。
人は断られるのが好きではなく、無意識的に「否定された」という感覚が残る。
「忙しいんですよ」は間接的に「俺に話を振るなよ」と伝えているように受け取られ、人が遠ざかってしまいがちになる。
言っている方は「俺はひっぱりだこだよ」とアピールしているつもりだろうが、逆効果になる一例といえる。
その人のキャラクターにもよりますが、基本は「全然暇なんですよー」くらいの感じで、断るときは「ちょうどその時だけ予定があって、、、本当にやりたかったんですけど」とこちらのポジティブな意思を伝えておくことが大切です。
プレゼンテーション能力を持つ
僕自身も、プレイヤーとして他のクライアントから要求されるシーンはしばしばある。
音楽制作や演奏、執筆のなどがそれにあたる。
その際、僕は自分の経験をもとに、相手の立場から自分のするべきことをシミュレーションする。
クライアントが求めていることを推測し、指示されていない部分も丁寧にこなすことで、クライアントは「言わなくてもやってくれる優秀な人」という評価を持ち、リピーターにつながります。
わからないことは確認することも大切ですが、なんでもかんでも指示をあおっていると、「自分で何も判断できないダメなやつ」と判断されます。
また、曲の歌唱コンセプトが自分に合っていなかったり、不明瞭だった際には、その点を正直に指摘したり、代案を提示したりすることができれば、プレーヤーでありながら実質その現場を支配することができるケースもあります。
音楽は、そのほとんどが「誰かを喜ばせる」ためにつくられます。
どんな人のために作られている作品で、内容にそのお客さんがどう反応するかを推測できれば、クライアントと同じレベルで作品に対して向かい合うことができ、仕事のパートナーとして高い信頼関係を築くことができます。
音楽制作はチームプレイ
音楽はひとりで作ることはできません。
さまざまな人の力を借りてその作品がうまれるという意味では、チーム全体が良い雰囲気で仕事が進むよう一人一人が心がける必要があります。
音楽に真摯に取り組む姿勢と、関わっている人との関係を考え行動することが「使われる側」の大切なポイントです。